声がする。


昼休みなのだから当たり前の事なんだけど、そうじゃない。


それはもう騒々しいぐらいの声。

一人じゃない。
多数の声。


おかげで前の席に腰掛け、熱心に語る友人、朱宮 慶(アケミヤ ケイ)の話も頭に入ってこない。


「でさ!って歩夢(アユム)、聞いてる?」


ほんとさ、朝起きた瞬間からこの騒々しさ。

正直頭痛い。


なんでこんなに憑かれやすいのか……。



文句やら悲鳴やら耳元で騒がれるのは面倒だ。



「あー、もう、うるさいなぁ」
「……え」


思わず呟いてしまった言葉に、慶は瞠目した。


「あ、ごめん。慶じゃなくて。」
「?」
「あー…気にしないで。」


慶は首を傾げたまま、怪訝な顔をする。


どうしようかと思案していると、聞き慣れた声音がした。



「あれ、先輩……今日はまた随分と大勢の方を連れてますね。」


廊下側の窓を見れば、ニコニコと楽しそうに笑む後輩の姿。



「楠木………」
「相変わらず今日もモテモテですね。」
「だから嬉しくない……まぁ、ちょうど良かった。」


俺は後輩を口実にこの場を乗り切ろうと立ち上がる。


「慶、悪いな。昼はコイツと約束してたんだ。」



首を傾げたままの慶を残し、後輩を連れて教室を後にした。