「深い意味はないけど、楠木について何にも知らないなと思って。」
「ああ、なるほど。そうですね、趣味は……先輩をからかう事でしょうか。」
「……おい」


睨めば肩を竦め、すみませんと口にする。

ほんと悪びれる様子がない。



「これと言ったものはないですが……昔はゲームとかそれなりに好きでしたよ。」



ゲーム……
それはまた意外な。



「今は好きじゃないのか?」
「やれば好きでしょうけど、今はやれないので。」



やれない?
それぐらい忙しいってのか?

七不思議解明してるぐらいだし、暇人だと思ってたけど…。



「先輩は?」
「え…」
「先輩の趣味は何ですか?」
「ああ、そうだな……」



趣味……とか考えたことないな。



「あ!あれですか、霊に憑かれること」
「………殴るぞ?」
「あはは、冗談ですって。」



コイツ、絶対真面目に聞く気ない。



「もういい。」
「怒らないでくださいよ。すみませんって」



謝るなら、もう少し悪びれるべきだと思う。


北校舎、三階。


楠木の言う、迷いの廊下。


「ここか…」
「はい。17時11分、この廊下を歩くと迷ってしまうそうですよ。」
「ふーん…」



俺は廊下を一歩踏み出す。


「先輩、待ってください。俺より先に歩――」


背中で呼び止める声が、突如消えた。


「え……」


振り返ったそこには、誰もいなかった。