「迷いの廊下?」
「はい。」


ニコニコと廊下に面した窓から身を乗り出し、楠木は語る。

語るのはもちろん七不思議だ。


「ある時刻に北校舎、三階の廊下を歩くと迷い、帰って来れなくなるそうです。」


毎回思うけど、どうしてこの後輩は物騒な事を楽しげに話すのか…。


「で?」
「言わなくても分かってますよね?今日の放課後、試してみましょう。」


どうせ断ったって、こいつに言いくるめられてしまうんだろうな…。



俺は返事の代わりに短く嘆息した。



じゃあ、と後輩は立ち去っていく。

そう言えば、仙道の姿がなかったな。

まぁ、居ないに越したことはないんだけど。



「おっはよー」


どんっと背中を叩かれて振り向けば、慶の姿。


「……はよ」
「相変わらずのローテンションだな。」



相変わらずのハイテンションだな、とは返さなかった。


「なあ、今日の帰りどっか行かねー?」
「あー…悪い。ちょっと用があるんだ。」
「またかよ?最近ずっとだよな?」



腰に手を当てて慶は俺を見る。


「一体何してんだ?」



七不思議解決してます、なんて言えないよなぁ。


「………後輩に呼ばれてて」
「なに!?女子か!?」
「違うって」
「なーんだ。」


それで慶は興味を無くしたようで自分の席に着く。


助かった……。
悪いな、慶。
出来れば、巻き込みたくないし。