俺は眉を寄せる。
「どうして?七不思議では戻ってくるんだろう?」
「前にも言いましたよ。七不思議は所詮噂話。それが事実である保証はない。それに」
後輩は言葉を切って、俺をじっと見る。
「なに?」
「連れ去られてしまったら、俺でもどうすることも出来ませんから。先輩を守れなくなっちゃいます。」
「………ちょっと聞きたかったんだが」
「はい。」
「……なんでそんな俺なんかを守ろうとしてんの?」
「縁ですから。」
楠木は言い切って、清々しいまでの笑みを見せた。
「それだけ?」
「それだけです。」
まぁ、いいか。
無事に戻ってきたし。
ああ、そう言えば……
「変な奴に会ったんだ。」
「変な奴?」
「そうそう。楠木のこと探してた時にさ、会ったんだけど。どうせ笑われるだろうと思って、壁男に連れ去られたって事実を言ったら、そいつ信じたんだよ。」
へぇ、と楠木は興味ありげに手を口元に当てた。
「あれじゃないですか。七不思議信じちゃう系男子とか。」
……俺と同じ思考回路かよ。
「その後にさ、俺に言ったんだよ。明日にでも戻ってくるよって。そしたら本当に楠木は戻ってきた。」
「たまたま壁男の話を知っていただけでしょう。」
「そうなのかな……」
北校舎に向かう途中、二年の教室の前を通る。
ちょうど教室から出てきた生徒が居た。
目があったソイツは、
「………あ」
間違いなく昨日の男子生徒だった。