「俺さ見えちゃうんだよ。」



と得意げに教室の真ん中でクラスメートの一人が言った。


俺は自分の席に座りながら、遠巻きに見つめた。


「本当大変なんだぜ。見たくもないのに見えちまうってさ。」



そいつはやれやれと首を振った。



「歩夢、賢輔(ケンスケ)のあれ本当だと思う?」


と俺に訊くのは前の席に座る慶だ。

賢輔とは先刻から“見える”と断言しているクラスメートのこと。



「さあね。」
「お前ね、ちょっとは興味持てよ。」
「んー…」



興味ね……。
そう言われても。


見えないとなればそれまでだし、例え本当に見えるとしても、今更驚いたりはしない。



なんたって……



「もの思いにふけちゃって、何か悩み事ですか?」



急に視界が陰り、頭上から声が降ってきた。



見上げれば、あの見慣れた笑顔で俺を見下ろす後輩。



「……楠木」
「どうも。」



本当に見えちゃう奴がここに居るわけだから。