フリップ、と姫は柔らかな声で隣に寝ている彼を起こす。
窓から木々の紅葉が見え、朝日が差し込み、鳥の声が響いていた。
お城とは大違いの木で作られた小さな家に二人は暮らしていた。
目を擦る彼をもう一年以上見ているが一向に飽きない。
逞しい彼の唯一の可愛らしい瞬間だ。

「おはよう」

「おはようございます」

こうして朝の挨拶を交わすのは何回目だろうか。

「朝食の支度をしますね」

ベッドから降りようとするフリップの腕を掴み、その場に留まらせる。
化粧を落とした姫はお城に居た彼女とは似ても似つかなかった。
それを利用して彼女は森の中のこの家から町に働きに出ている。
自分が働かなくて申し訳ないとフリップはいまだに負い目を感じているが、お金を稼ぐ以外のことを彼は全てやってくれているので彼女は気にしていない。
それよりも一緒にいてくれるだけでお礼を言いたいくらいなのだ。

「どうかしました?」

「仕事休みなの」

化粧をしていない顔を見せるのは勇気がいった。
お城から深夜に脱走して、翌日顔を洗った姫はしばらく顔から手を退かさなかった。
フリップは何も言わずに待ち続けて、自然に手を離した姫に微笑み、その額に唇を落とした。
その時が嘘のように素顔を見せられるのは時の流れか。

あまり器量の良くない姫の顔をフリップは真っ直ぐに見つめて、首を傾げた。
休みの日は二人で森を散策することが多い。
なぜベッドに引き戻されるのか理解できない、というように眉をしかめた。

「外には行かないわ」

「では、どうなさるのですか?」

姫はフリップの首に両腕を巻きつけて、耳元で囁いた。

「一日中抱きしめて」