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「いよいよ決勝戦だ。皆ここまで本当に良くやったな、自信持っていいぞ。
次の試合も、お前達らしい最高の試合にしてくれることを願う……以上」



「「「有り難うございました」」」



藤堂先生の話が終わって各自帰路につく。
皆今日の試合が忘れられないのか、顔がだらしなく緩んだままだった。



私も、もちろんその一人。



「河原ー、帰るぞ」



満面の笑顔を浮かべる水野先輩に呼ばれて、私は鞄を肩にかけた。



「顔、緩んでるな」



「先輩も負けてませんよー」



私が噴き出すと、先輩も照れたように笑い出した。
お互いの表情が、これが夢なんかじゃないと思わせてくれる。



「決勝戦か……」



不意に、先輩の顔から笑顔が消えた。
何処か遠くを見据える先輩に、夏の生ぬるい風が吹き抜ける。



「相手も本気だろうな。何たって甲子園が繋ってるんだ」



「うちが勝てば17年ぶり、相手校が勝てば21年ぶりの甲子園出場ですからね」



決勝戦の相手校との力はほぼ互角。
どっちが勝っても不思議じゃないだろう。



マスコミも地元の人達も大々的に今度の試合を取り上げてる。
何を見られても恥ずかしくないよう、気を引き締めなきゃ。