唯一の涙


私が固まっていても、試合は止まってはくれない。
先輩達は素早く頭を切り替えると、各自守備に入る。



パコンーーっと、頭に何かを落とされた。



「いたっ……何?」



メガホン……?



頭を摩りながら、真横を見る。



「次、彼奴らがベンチに帰って来たら、笑って迎えてやれ。
マネージャーの笑顔一つで、チームの勝利が左右されるからな」



中々クサいことを言うのは、ヤンキーばりの横顔を見せる藤堂先生。
でも、この時ばかりは先生の言葉が、心の奥まで染み渡った。



「ーー特に、水野の打席はな」



「……え」



瞬時に顔の筋肉が固まる。
今、藤堂先生なんて………?



「気付かねぇと思ったか、馬鹿。バレバレだ」



せせら笑う先生に、黒い何かが私から溢れ出した。
なくなりかけた理性を必死に掻き集めて、深く深呼吸。



今は試合中。相手は先生。私は生徒。



何度も心の中で呟いて、自分に言い聞かせる。



「俺も男だ。別れろ、なんて野暮な事ぁ言わねぇよ。それにお前達は、部活に私情を挟むような真似はしねぇからな」



しみじみ言う先生に、私は思わず本音を漏らした。



「先生も人の子だったんですね」