唯一の涙


先輩の顔が一瞬のうちに真っ赤に染まる。
そして照れ臭そうに、前髪を掻き上げた。



「緊張どころか、意識飛ぶかと思った」



緊張通り越して意識まで⁉



そこまでする気はなかったのに……もう当分私からキスするの止めとこう。
試合前に選手が気絶しちゃったとか、洒落にならないし……。



「そろそろ行かねぇとヤバいな」



先輩に手を引かれながら、試合会場まで走り続けた。



*******



試合開始のサイレンが鳴り響く。
先行は私達。ベンチからも、応援席からも声援が飛ぶ。



相手校のピッチャーは、この辺でも一二を争う程の腕前だ。
彼の持つ高速ストレートは、どんな凄腕のバッターでも押されてしまう。



内角を攻められれば、誰だって腰が引いてしまうだろう。



だけど、このチームはピッチャーと鬼才の打率を誇る4番の選手がやたら強いだけで、他は私達とそう変わらない。



つまり、たった二人を攻略して崩せば、私達にも勝利が見えてくるってことだ!



「矢野ーー塁に出ろーーー‼‼‼」



あ……矢野先輩ってば、肩に力が入ってる。



緊張でガチガチじゃん……ちょっと、いやかなり……ヤバい、かも……?