そう言えば、手も冷たい。
まるで、先輩の手に血液が通ってないみたいだ。
「先輩、緊張してるんですか?」
「……かもね」
肩を竦めてみせる水野先輩。
笑ってるけど、こんなの先輩の笑顔じゃない。
先輩の笑顔はもっと綺麗で、見てるだけで胸があったかくなるんだから。
どうしたら、先輩の緊張が溶けるんだろう……。
私だったら、どうやって緊張を取り除く?
一瞬の不意をついて、先輩の顔を引き寄せた。
先輩との身長差はそれほどないから、少し爪先立ちをするば先輩の唇に届く。
ちゅっ……と音を立てて、私は軽いキスを先輩にした。
私なら、どんなに緊張してても、驚いたり、思いっきり笑ったりすればそんなもの何処かに吹っ飛んじゃうから。
だからきっと、私以外の人も例外じゃないはず……!
ハラハラしながら、先輩の顔を覗き見た。
先輩は口元を抑えたまま、驚愕の眼差しで遥か遠くの方を見詰めている。
あれ、失敗?
余計先輩を困らせちゃった?
「……緊張……取れました?」
取れてませんよね、私の所為で……ごめんなさい。
今なら私、なんの躊躇もなく土下座できます……。


