唯一の涙


「河原」



「……」



「河原さん?」



「……」



「おいっ良い加減にしろよ、河原‼いつまで無視する気だ⁉」



試合後、ミーティングと軽い基礎練習を終えた私達。
ちょうど今日で合宿も終わりだったから、そのまま解散となり、その帰り道。



「河原、何か言え」



この状況に至る訳です。



「……バスのことか?」



今でも鮮明に思い出せる、先輩の感触。
私の唇に先輩の唇が重なった、あの一瞬を。



「……そうだよな、あんな一方的にしたんじゃ……悪かったな」



先輩は辛そうな顔で無理やり笑うと、私に背を向けた。



違う……私は、先輩に謝って欲しいわけじゃない。
私はただーー



「ーー水野先輩‼」



先輩に笑って欲しいだけなんだ。



「…河原」



いつもの優しい笑顔で私の名前を呼んで欲しいだけなの……。