唯一の涙


左打ちの水野先輩は軽く土を慣らして、構えた。
スコアを付ける手を止めて、喰い入るように先輩を見つめる。



「水野ーーー!!」



今日一番の爽快音。
先輩の打球は綺麗な弧を描いて、真っ正面の応援席に落ちる。



吹奏楽部の音色が一瞬途切れ、瞬く間に大音量で奏で出された。



0ー4



塁に出た皆が帰って来て、最後に水野先輩がホームに帰ると、全員身を乗り出して帰って来た四人を戯れ始める。



私も今にでも飛び出して先輩の元に走り出したかったけど、バスのことが頭から離れない。



こんなんじゃ、どういう顔して先輩と話せばいいのか分からないよ。
今まで先輩と話していたのが嘘みたいだ。



「河原、スコア逆さまだぞ」



「あ……すいません」



訝しげに私を見る藤堂先生にドキドキしながら、私はスコアにペンを走らせた。



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結局この日は0ー4でうちの勝ち。
私達は無事、二回戦に駒を進めることが出来るんだ。



行きのバスとは違い、帰りのバスは騒がしく、藤堂先生の雷が落ちたのは言うまでもない……よね?