唯一の涙


「……え?」



今、なんて?



先輩は少し照れ臭そうに笑うと、もう一度、



「和歌」



私の名前を呼んだ。



生まれて初めて、好きな人に呼んでもらった自分の名前。
全身の血の巡りが速くなって、顔に熱が籠もり出す。



【和歌】



じいちゃんの趣味が和歌を詠むことだった。



そんな、深い意味なんて1mmもない私の名前が、何よりも輝いて聴こえる。



「今までありがとな。お前と最後まで一緒にいれて、俺すげぇ嬉しかった」



そこまで言うと先輩は改まったかのように姿勢を正した。
顔も笑顔が消えて、真剣そのもの。



私はジッと、先輩の言葉を待った。



先輩は私の眼を見て、




「次に俺があの町に戻った時、お前の気持ちが変わらないままだったら、






水野 和歌になってくれませんか」



紛れもないプロポーズの言葉を、囁いた。