「ーー落ち着いた?」
「はぃ……ぁりがと…ございました」
先輩の腕の中で小一時間ほど泣いてしまった私。
茜色に染まっていた海はもう真っ黒で、さっきまでの幻想的な雰囲気が嘘のようだった。
店員のお姉さんに持って来てもらったお絞りを眼に当てる。
泣いちゃった。
私、泣いちゃったよ。
人前で泣いたことなんてないのに、先輩の前だと自分自身のコントロールが鈍くなってしまう。
【誰かの前で泣いてしまったなら、同情されるのがオチ】
そう思ってたけど、違うのかもしれない。
誰かの前で泣くのは、やっぱり今でも恥ずかしいけど。
誰かに同じ目線になってもらえるのなら、少しはいいものなのかな。
「和歌」


