唯一の涙


ーーーカラン♪



「ん?どーした河原。百面相の練習か?」



「せっ先輩⁉」



「何だよ。あれ、何か顔赤くね?……もしかして、長く海にいたから風邪ひいたのか⁉」



「ち、違います違います違いますからっ‼‼」



落ち着こう。
まず落ち着かなきゃ。先輩の顔まともに見えないし。



「そっか……なんかあったら言えよ?…なんて、もう側に居てやれないんだけどな」



「ーーーー」



あ……そうだった。



今日がーー最後なんだ。



先輩とこうして笑っていられるのは、今日で終わりなんだ。



「かわ………はら」



「え?」



あれ、なんだろう。
眼が……熱い。先輩がぼやけて見えるよ……やだ、どうして?



先輩はそんな私を無言で抱き締めた。
痛いくらいに力が入った先輩の腕。



でも、足りない。
もっと……もっともっと強く抱き締めて?



私に、先輩をいっぱいに感じさせてっ…。



離れたくない。離れたくないよ、先輩。
側にいて、私の側で笑っててよ。



遠くに行かないで、近くでいて。



我慢していた気持ちが、一気に溢れ出してくる。