唯一の涙


「ふふっ……」



そんな私に近づく一つの影。
コツコツとヒールを鳴らしながら、店員のお姉さんが私の隣に来た。



「ねぇ。今出て行った子って貴女の彼氏?」



「そう、ですけど……?」



何が言いたいんだろう。
まどろっこしいのは嫌いだ。



「あぁ……ごめんなさいね。いきなりこんな事聞くなんて驚いたわよね?
……ただ、貴女たち二人が、あんまり似てるから……」



上品に口元を隠しながら、お姉さんはまた笑う。



「あの、似てるってどういう事ですか?」



お姉さんは垂れた髪を耳に掛け直すと、薄っすらと頬を染めて私の耳もとで囁いた。



「プロポーズよ、プロポーズ。
ここを経営してる店長から聞いたんだけどね、今から二十年前に若いカップルが来て、この茜色に染まる海をバックに、彼氏が彼女に大告白したらしいのよ。結果はもちろんYES」



「プロポーズ……?」



「二人が座った席もちょうどココなの。だから、ね?」




先輩の顔が浮かんで来て、思わず顔が真っ赤になった。
お姉さんは私の心を見透かすようにウインクして、店の奥に引っ込んで行った。



バカバカ私っ。
先輩がプロポーズとか、そんな訳ないじゃん‼



だから私の顔っ‼赤くなるなぁぁぁぁぁぁぁあ‼‼