唯一の涙


飄々とした足取りで、瞬さんは外に出た。



「和歌ちゃんはさ、知ってるんだよね」



ドアの向こうから、瞬さんが言った。



「何のことですか……?」



嘘……本当は分かってた。
けれど、私は惚けてみせた。



「夏希の転校のことだよ」



ああ……やっぱり。
一番聞きたくなかった。誰にも、言って欲しくなかった。



瞬さんは私の気持ちなんてものを気にすることもなく、軽々と言い放った。
ピタリと私の手が止まる。



ゆっくりと、振り返った。
ドア越しにいる筈なのに、壁に持たれた瞬さんの姿が見えた気がした。



「知ってますよ」



「だろうね」



私は感情を一切含まない言葉で返すと、再び着替え始めた。



「それでも一緒にいるってことは、そういう意味で捉えて良いんだよね?」



何かを探るような、瞬さんの声色。



少し前の自分なら、言い知れない怖さに震えていただろう。
私は心の中で小さく笑った。



ヤンキー顔負けの威喝さをもつ藤堂先生、絶対零度の眼差しをもつ石神先輩、笑顔を操る白石先輩。
個性豊かな三人のお陰で、そう言ったことに免疫が付いてしまったのだろうか。



私は動じることもなく、ドアに近付いた。