唯一の涙



「ど、どうですか?」



着付け教室が始まって小一時間。
意外とスパルタな瞬先生の指導の元、なんとか一人で着れるまで成長した。




「うん、合格かな。夏希、彼氏として頑張った和歌ちゃんに何か言ってあげれば?」



「あ……お疲れ様でした…」



「何それ、夏希って馬鹿?気の利いた台詞の一つも言えないの?」



「煩せぇよ‼‼」



瞬さんのことでわかったことが一つ。
先輩に対してだけ口が悪い。



でも、仲が悪いって訳じゃないから、注意しなくても大丈夫だよね?



ーーガチャ



「ーーただいまぁ」



アルトぐらいの声が、玄関の方から聞こえて来た。
先輩のお母さん、かな?



「あ、母さん帰って来た。俺ちょっと行って来る」



先輩は『河原に手を出すな』とだけ言い残して、部屋を出て行った。



「もう着替えなよ。文化祭、成功するといいね」



「有難うございます」



優しい瞬さんの言葉にグッときて、私は帯に手を掛ける。



「どうしたの?脱がないの?」



「ぬ、脱げるわけないでしょうがっ‼‼‼‼‼‼」



どさくさ紛れて背後から抱きついてきた瞬さん。
私は反射的に振り払う。



「あははっ、冗談だって。面白いなぁ〜」