「お前は馬鹿か?」




そう低く冷たい声で言い放ったのは、圭。
ぼくはなにも言い返さないで、次の言葉を待った。

圭は、はぁーっとため息をつきながら続きを話す。

「地元が田舎なのが嫌で高校卒業と同時にこっちに引っ越してきたと。そこまではいいよ。けどな...わざわざこっちに引っ越してきたのに。なんだよ大学1年で中退して現在フリーターって。もう少し粘れよ。」

...ごもっともです。





ぼくは去年、大学を中退してから、ずっとある工場で働いている

毎日 毎日 同じ作業の繰り返し。だが時給はかなりいい。周りはおばちゃんばっかで楽しくはないが。


「お前さ、結局こっちに引っ越してきて何がしたかったわけ?工場で働きたかったの?」

「・・・・・・・・・・・。」




やりたいことなんて ない
ただ、地元から逃げたかっただけなんだ。


それじゃあ駄目なのか?
この街もぼくを受け入れてはくれないのか?



「・・・・じゃ、おれ帰るから。」

もやもやした思考に陥ってるなか、圭は時計に眼をやってから静かにそう言って立ち上がった。


もう2時か。


「悪いな、久しぶりに逢ったのにろくな話もできなくて」

「いいよ。また今度どっか飲みに行こうぜ。」

そう言いながら圭は赤いヘルメットをかぶって原付にまたがった。


「じゃあな」
「おう。」




手を降ってから大きなエンジンとともに闇夜の中に消えてく圭。


「・・・・・・静か、だな」


圭がいなくなった途端
襲いかかってきたのは
怖いくらいの静寂と
吸い込まれそうなくらいの、闇




気づいたらぼくは、家に戻らず圭とは反対方向へと 進んでいた。


真っ暗闇の中、まるで光を求めるようにふらふらと...。