待ち遠しい『明日』は、あっという間にやって来た。
敦哉さんと別れてから眠ることなんて出来なかったけれど、夜明けを長く感じる事はなかったのだ。
それはきっと、キスの感触がずっと残っていたから。
敦哉さんの余韻に浸りながら過ごす時間は、むしろゆっくりと進んで欲しかった。
「おはようございます」
普段通りに出勤すると、いつもの様に朝一で外回りに出る営業の人たちが準備をしている。
その中で私に気付いた亜由美が、声をかけてきたのだった。
亜由美は、私の同期で営業ウーマンだ。
成績は常に上位にあり、涼しげな目元が特徴的なスレンダーな美人だ。
ちなみに、語学が堪能で恋人はアメリカ人だったりする。
「おはよう愛来。データ処理ありがとうね。ちゃんと出来てるんだから、感動しちゃったわよ。大変じゃなかった?」
「ううん。大丈夫よ」
そうか。
亜由美だって誰だって、私と敦哉さんが昨日一緒だった事を知らないのだ。
もちろん、恋人同士になった事すら•••。
そういえば、私たちの関係は秘密にしておくべきなのか。
社内恋愛は禁止でないのだから、私たちの付き合いは決して悪いものではない。
だけど、敦哉さんとは部署が同じな上デスクが近いだけに、周りに知られるのは気恥ずかしいものがある。
そんな事を考えていると、敦哉さんが入って来たのだった。
「おはようございます」
いつもの様に笑顔の敦哉さんは、私にも目を向ける。
「おはよう、愛来」
「おはようございます•••」
こんなやり取りは毎朝のお決まりだ。
特別意識をする事ではないけれど、やっぱり視線は敦哉さんを追ってしまう。
ゆうべの出来事は、実は夢ではなかったのか。
そんな事すら思えてしまうから。
でも、ここは仕事場だ。
今は仕事に集中しよう。
すぐに敦哉さんから目を離し、パソコンを立ち上げ日課のメールチェックをする。
お決まりの業務連絡から始まり、最後のメールは敦哉さんから届いていた。
それは業務連絡ではなく、個人的に送られていたのだった。
「何だろう•••」
心臓が跳ね上がりそうなくらい緊張しながら開いてみる。
するとそこには、今夜の誘いが書かれていた。
『今夜の仕事終わりに会えないか?愛来に話があるんだ』
敦哉さんと恋人同士になれたのは夢ではなかった。
なんて、子供の様に胸を踊らせながら、すぐに返事をしたのだった。
『もちろんだよ。裏玄関で待ってるね』

