三人の姿が完全に消えたのを確認した海流は、私の側へ歩み寄って来た。
「意外と普通だな。俺の予想じゃ、愛来たちはケンカしてると思ってたんだけど」
「似たような事態になってるわよ。それより海流、人目につかない場所で話しをしない?」
すると、海流は一枚の白いカードを見せてきた。
「何?それ」
「船の部屋の鍵だよ。何もしないって約束する。俺の部屋で話さないか?」
それは、さすがに即答出来ない。
なぜなら、海流の部屋で話をするなんて危険過ぎるからだ。
だけど、会話を聞かれたくはない。
それに、もし約束を破られたら、大声を上げればいいのだ。
さすがの海流も、こんな場所で強引な事はしないだろうから。
「分かった、そうする」
海流には、キッパリと言わなければいけない。
もう、あの夜の様にキスは出来ないと。
それに、軽々しく会えないという事も。
海流に案内された場所は、船内では二番目に高いフロアで、デッキに沿って部屋がある。
こげ茶色のドアが並んでいて、さながらホテルの様だった。
「そういえば、私、自分の部屋を知らないわ」
泊まりだとは聞いているけれど、部屋の話には全く触れられていない。
「そうなのか。まあ、後で敦哉さんが教えてくれるんじゃね?どうせ、二人は同じ部屋なんだろうし」
嫌みたらしい言い方で、海流は先を急ぐと、ちょうど中央辺りで立ち止まった。
「ここなんだ」
ドアの前は少し広めの空間があり、その先からは海が見渡せる。
せっかくの景色も堪能出来ないのは残念だ。
海流はドアを開けると、私の背中を軽く押し中へ入れた。
部屋は、ベッドが一つに二人掛けソファーが1脚。
それに、チェストが置かれていた。
海流はソファーに私を座らせると、自分は向かいのベッドへ座る。
『何もしない』という約束を、守るつもりでいてくれるらしい。
「ねえ、海流。一体、いつの間にライターになったわけ?」
「ああ、そういえば言ってなかったよな。転職したんだよ。それでこっちに帰って来たんだから」
「へえ。だから私たち、再会したってわけだ」
もし、海流がまだここへ帰って来ていなかったら、例え高弘さんから私の話を聞いたとしても、再会することはなかったのだろうか。
そんな『もしも』を考えていると、吹き出されてしまった。
「愛来にキスをしたのは、完全に間違いだったな。そんなに嫌そうな目で見るなよ」
「えっ?私、そんなつもりじゃなかったんだけど•••」
顔に出ていたという事か。
「ケンカにはなってないんだろ?だったら何で、そんな嫌悪感のある顔で見てるんだよ?俺は別に、敦哉さんに話すつもりは無いけどな」
「そうじゃないのよ。敦哉さん、本当は何もかも知ってるんだから」
「えっ?」
息を飲む海流に、私は全てを話したのだった。

