「世界中を旅!?そんな船でのパーティーだなんて•••。私、もっと簡単なものを想像していたのに」
これは、噂で聞いていたランチとは全然違う様だ。
それに、ちらほらと船を出入りしている人は皆、出入り口で身分証を提示している。
その姿に圧倒され、自然と足が止まってしまっていた。
「セキュリティ強化の為なんだよ。気にしなくていいから」
「そ、そう。セキュリティ•••ね」
そう言われても気になる。
セキュリティを強化をしないといけないくらい、仰々しい理由があるのか?
だいたい、こんな昼間からのパーティーとは、一体どういう内容で、どんな人が来るものなのだろう。
謎だらけのパーティーに、一気に心細くなってきたのだった。
「ねえ、敦哉さん。このパーティーって、一体何なの?」
それでも、半ば強引に手を引かれながら、船内入口への階段を上る。
すると漏れなく黒いスーツを身にまとった男性が、私たちへ鋭い視線を向けたのだった。
30代くらいの体格のいいその人に、こちらも警戒してしまう。
「毎回、新しい港へ着くとパーティーを開くんだよ。気ままな旅をしている人しかいないから、娯楽の一つとして人気があるんだ。そんなに緊張しなくていいよ」
囁く様に敦哉さんは、そう説明してくれたのだった。
「へえ。よほど、セレブばかりなのね」
娯楽でパーティーとは、世界が違う。
それに、新しい港へ着くたびに開くとは、その贅沢さを妬ましく感じるほどだ。
少しだけ緊張が緩んだところで、船内への入口へと着いた。
そして敦哉さんは、チケットを男の人に見せている。
すると、やはり身分証の提示を要求され、免許証を渡していた。
次は私の番か。
そう思い、バッグの中から免許証を取り出しておこうとした時だった。
敦哉さんの免許証を見ている男の人の顔つきが、急に変わったのだった。
「新島•••、敦哉様?」
青ざめているその人の異様な雰囲気に、こちらの手は止まり、視線はその人から離せない。
どうやら、敦哉を知っている様だ。
「あっ、知ってるんだ?俺の事」
すると、その人は動揺しながら頷いている。
「も、もちろんです。お待ちしておりました。まさか、こちらから入られるとは思わなくて」
「一般客だからな。それにしても、オヤジのやつ、根回ししてやがるのか」
舌打ちをした敦哉さんは、さっさと船内へ入った。
そして私はと言うと、敦哉さんと一緒にいるというだけで顔パスだ。
足早に歩く敦哉さんに引っ張られながら、振り向きざまに見た男の人は、頭を深々と下げていた。
一体、何だというのか。
理解が出来ないまま、だけど敦哉さんに聞くにも聞けず、ただ付いて歩く。
険しい表情を崩さない様子に、話しかけられない雰囲気を感じたからだ。
と、その時。
誰かが背後から呼び止めてきた。
「敦哉、ようやく顔を見せたな。待ってたんだぞ?」
振り向くと、そこには中年の男性立っていた。
その人は濃いグレーのスーツを着ていて、体格の良さと深いシワのある顔は誰かに似ている。
とても端正なルックスで、渋いが色気もる人だった。
だけど、私たちを見る目は鋭く、言葉では表現出来ないくらいの威圧感がある。
そして敦哉さんも、同じくらい険しい表情でその人を見つめていた。
「何とか言ったらどうだ敦哉。新島グループの御曹司として情けなくないのか?」

