昨日、亮が抱えていた猫。
カラスが咥えていったほうに向かい、
手当たり次第に茂みを探す。
ーガサっ!
「…っ!」
膝に血が滲むのが見えた。
私、何してるのかな…
亮が現れてから変だよ。
いきなり、地味な隣人がやってきて、
その人が実はイケメンで、周りの女の子に追っかけ回されて…
帰りに猫を拾って、キス未遂で。
気まずいのに猫探してるなんて…
バカみたい。
つい、
ははっと一人で笑ってしまう。
すると、
『にゃー』
茂みの中から、ぼろぼろになった猫がいた。
多分抵抗して、振り落とされたんだと思う。
『にゃー』
弱々しげに私の膝の上にのる。
「…亮のばか」
自分でもよくわからない感情が溢れ出す。
「…ばか、ばか、ばか」
猫を抱え、歩き出そうとすると、
耳元にぬくもりを感じた。
「奏、ごめん」
後ろから、手がまわる。
その人の腕は少しだけ震えているような気がした。
「…ばかだね。俺」
「遅いよ…気づくの。」
「本当は、俺ね…気づいて欲しかった。」