「御連絡いただいたことに感謝します」
 


感謝の言葉を口にする時すら、凛として格好良い。

彼の場合、媚びるなんていう体験はしたことがないのだろうし、これ以降も一生ないのだろうとは思うけど。


 
「何かの折には『ヤナギヤ探偵事務所』をヨロシク。ウチは良心的な探偵社ですから」

 
名刺を渡したりして、ちゃっかり営業するヤナギヤ。

 
爽やかに一礼した後、「来なさい」といって氷室氏は、都季嬢を連れて行った。

彼女も観念したのか、あえて抵抗はしなかった。
 

氷室氏についてやってきた執事の原島さん――七十歳くらいだろうか? とてもかくしゃくとした印象の人だった――は「お礼に」と言って、かなり厚い封筒を手渡そうとしたが、ヤナギヤはガンとしてそれを受け取ろうとはしなかった。