「どうした、突然会社にやって来て」
 


氷室涼輔の、あえて感情を排除した声が問う。

窓の前に立ち、原島に背を向けている。
 

「申し訳ございません。しかし坊ちゃま。なぜ、お探しにならないのですか?」

 
原島は言った。


 
「何の話だ。物事は誰にでもわかるように言うものだ。

それに、その呼び方はやめろと言っているだろう」
 

せわしなくゆきかう車が、カブト虫くらいの大きさに見える大通りを見下ろしながら、氷室涼輔は言った。
 


「この原島、僭越(せんえつ)ながらも都季様のことでお話に参りました。

社長代理は、どうして都季様をお探しにならないのですか」



原島の口調は、その好々爺(こうこうや)然とした見た目からは想像もつかないほど熱のこもったものだった。