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「今晩は、氷室社長代理」

 
一瞬迷った末に、旗丸理恵子が携帯電話に出た。


 
「そう。取引の内容は? 

ダメよ。十億。それ以下では話にならない。ええ、いいわ。

頭が切れるわね。乗ってあげる。そこまでして取り戻したいんだったら、警察に行くような愚行には走らないでしょうからね。

こっちは迷わず小娘を殺す覚悟だからね。

だけど、お金さえ払ってくれるのなら、傷一つつけないと約束するわ。……いいわよ」


 

彼女はあたしの所にツカツカと歩み寄った。


 
「声が聞きたいそうよ」
 

あたしの耳に電話を当てる。