柳屋光は、大きく息を吸いこんだ。

 
バターと小麦粉の焼ける、香ばしい匂い。

ショウガの香りがアクセントを添えている。
 


「ヤナギヤ探偵事務所」。



事務所奥のキッチンでは、ジンジャーマンズ・ブレッドが焼けている。
 
日頃、仕事をしろとうるさく追いたてる探偵助手の伊崎修は、締め切り間近のコラムを抱えているとかで、来ていない。
 
相変わらず、ヒマだった。