そ、それにしても、まだ心の準備ってものができていない。


植え込みが目隠しになってくれているから、人に見られる心配はないけど……。


さっきつまんだラビオリ、かなりニンニクが利いていたことも気になる。



 
身をよじろうとしたけれど、涼輔さんの腕は、その細い身体からは想像もつかないほど力強い。



 
(あ、今あたし、自分の心の中で彼のことを思う時にまで、「涼輔さん」って……)



あたし自身の気持ちの変化に一番驚いていたのは、あたしだ。


そうしている間にも、涼輔さんの形の良い唇が近づいてくる。
 

その時、そうしようと思ったらできたはずだ。


例えば、彼を押し戻すとか、頭突きをかますとか……。
 

だけど、あたしはそうする代わりに、目を閉じた。



誰に教わったわけでもない。

それなのに、キスする時、人は自然に目を閉じる。

不思議だ。この世界は不思議でみちあふれている。