パーティの招待客の目にあったものを思い出す。

洗練と上品さで包んだ貪欲さと媚び。


隙あらば付け入ろうと狙うかのような、ギラギラした視線。


客たちに向けられた涼輔の微笑は、どこか冷たく突き放すようで、決して目は笑っていなかった。



そして痛々しいのは、冷たい微笑を向けられる側の人間ではなく、氷室涼輔の方だった。
 



ドロドロと煮えたぎるように熱くて、それでいて同時に、氷河期顔負けのものすごく冷たい世界。


 
その時、初めてわかったような気がする。


氷室涼輔は、生まれた時からずっと、そんな世界に住んでいたこと。



そして多分、彼は子供であることを許されなかっただろうこと。


お母様も早く亡くし、手放しで泣いたり、甘えたりすることができなかっただろうこと。
 



ママのことも頭をよぎった。


パパが死んでからのママ。会社の規模は、確かに氷室家とは比べ物にならないほど小さい。


だから、ママが媚びることもあっただろう。だけど、付け入られないように常に気を張っていなくてはならなかったことだろう。


ママが、会社のことに、ビジネスの世界にあたしが関わることを決して許さなかったのが……


あたしが一人前になったら、会社なんて売却するって言ってた本当の理由が、今わかったような気がした。
 


何だか、氷室涼輔が遠い世界に行ってしまいそうで、怖かった。