ほとほと困り果てていると、絶対零度の声。
 

「うちの都季に何か御用ですか?」
 


「うちの都季」」っていう言いまわしは、なかなかお姉様方にとって衝撃的なものだったらしい。


あるいは単に、氷室涼輔の冷たい態度に引いただけだったのかもしれないけれど。
 


どうやら彼は、あたしを助けてくれたみたい。

だけど、お礼を言う間もなく、偉い政治家のセンセイにつかまってしまったから、あたしはその場を後にした。


で、パーティ会場からできるだけ離れていたくて、ずんずん歩いてくるうちに、中庭の隅っこ、ドンづまりにまでとうとう来てしまった。


それにしても、氷室涼輔って、すごい人だなって思う。


男女問わず、みんなの憧れの的って感じ。

色々な人が、隠し切れない媚びの光を目に彼に近付いてくる。


氷室涼輔は、そんな人たちと社交辞令を交わし、ビジネスの話をする。

だけど、決して深いところまでは相手に立ち入らせない。
 

室内楽の演奏が聞こえてくる。

ブラームス『ハンガリー舞曲第一番』。


パーティで普通、短調の曲なんか演奏するか?(今のあたしの気分にはお似合いだけど)。