高嶺徹(たかみね・とおる)は、肺の奥深くまでタバコの煙を吸いこんだ。 


「署長」と書かれたフダが載ったデスクに肘をつき、椅子にふかぶかと腰かけている。



近頃は、嫌煙運動が盛んだ。


愛煙家としては肩身の狭い世の中になった。



駅のホームからは灰皿が撤去され、街角からは禁煙コーナーが消えた。


家に帰れば、女房からはローンの残った家が汚れて臭くなるとにらまれ、

高校生になったばかりの娘からは、

「パパ、臭いから寄らないで」 

避けられて、ホタル族。



S警察署内の署長室は、高嶺に残された唯一にして最後のサンクチュアリだった(本当は、喫煙コーナーに行って吸わないといけないのだが)。