氷室涼輔のドイツ語は、ほとんどネイティヴだった。


家庭教師をしてくれるのは、彼の好意で嬉しかったけれど、本当に疲れた。
 

さんざんあたしをしぼり上げ、部屋をあとにする時に、彼はいった。



「おやすみ、都季」


「おやすみなさい」



答えながら、あたしの心臓が無意味にバクバクいった。



――初めて名前呼ばれた……ファースト・ネームで!



今まで「おまえ」とか、「君」としか、呼ばれたことなかったのに!