「あ!ねえ、あれ!」


突然、話を切り替えてユウカちゃんはグラウンドの向こうを指差していた。

私もユウカちゃんの指差す方向を反射的に見てしまった。


「あそこにいるの、陽汰先輩じゃん。今日は初めて見たな〜」


ユウカちゃんは私をからかうようにニヤニヤしながらこっち見ている。


「な・・・な、なによぉっ。ニヤニヤして。せ、先輩がなによぉっ」

「"何"はこっちのセリフでしょ?何そんなに慌ててんの〜?私は先輩がいるって言っただけなのにね〜」


ユウカちゃんは私を玩(もてあそ)ぶ様に弁当の中のミニトマトをフォークで転がしている。


「もう、ユウカちゃんの意地悪。もう一緒にお弁当・・・」


そこまで言いかけて止めてしまったのは私の目線先に問題があった。

先輩と・・・誰だろう。3年生の人かな?

陽汰先輩と知らない女の子の先輩が仲良さ気に話している。


「こ、心向。ほら大丈夫よ!先輩って心向には特別優しい気もするし!私なんて話したこともないよ?だから〜、ほらほらっ気にしちゃだめ!あんなのただの会話でしょ!?あたしと心向が話すように先輩だって女の子とくらい話すよ!!」


ユウカちゃんは慌てた様子で私を傷つかないように慰めの言葉を並べる。

だけど、なんだろう。

ユウカちゃんの言葉は頭に全然入ってこない。

ただ、目の前の憧憬だけを呆然と見ていた。

胸が、チクリチクリと刺さるように痛かった。