ここに在らず。



それは、急に現れた新しい存在。聞き覚えのある、聞き慣れたその声。私と母は慌ててその声の主へと顔を向けた。


「なんで…あなたが居るのよ…」


母は、それを確認した瞬間、憎々しさのまじる声色でそれまで安定して落ち着かせていた表情をガラリと変える。


「サエがこちらに伺ってると聞いたので、迎えに、」

「そうじゃなくて!なんであんたがここに入って来れてるのかって聞いてるのよ!門は⁈ 鍵は⁈ なんで入れるのよ!」


母は突如、ヒステリックにそう叫んだ。
彼の登場にも驚いたけれど、それ以上に私はそんな母に驚いてしまって…でも怒鳴られた彼、今ここに居るはずのない人物であるトウマさんはそんな母には驚きもせず、至って冷静に彼女を見据えていた。


「…もちろん、藤堂さんから許可を頂いてるからですよ」

「だからなんで⁈ どうして、」

「あぁ、なんで藤堂さん…というか大奥様がサエの事を知ってるのかと、そういう事ですか?」

「!、そ、そうよ、どうやって…どういう事?一体どうなってるのよ!」

「…いえ、どうなってるというか、サエがこちらに連れて来られている事と、その目的を大奥様にこちらからお話ししただけですよ。…大奥様、お怒りでしたよ。事業を立ち上げる件はご存知なかったようでしたので」

「!」


そして、みるみるうちに青ざめていく母。…一体何の事だか、私にはさっぱりわからない。