向こう側の人がそんな、手が回されているなんて言い方をするだろうか。なんだかそれに棘があるように感じるのだけれど…
「……あ、あなたはそういえば…!」
そして私は、過去にあった出来事を思い出した。そうだこの人は、いつも鍵を開けてくれていたって、トウマさんが言っていた…!
「…私はあなた様を連れ帰るようにと言いつけられておりますので、それ以外の事は出来かねます」
すると、おそらく助けてくれと、見逃してくれと私が言うと思ったのだろう。その人はそれを察して私にそう告げた。自分には逆らう事が出来ないのだと、あの時のようには今は出来ないのだと。そして、そんな彼の気持ちに気づいた私は…気持ちを固めた。
「…分かりました。行きます」
私が今この人についていかないと…この人が私を無事連れ帰れないと、もしかしたらこの人は本邸の人達から酷い目にあうかもしれない。そんな立場に居ながらもこの人はずっと、私を助けようとしてくれていた。そんな人が酷い目に合うかもしれないと思うと…私にはそれが、耐えられなかった。その痛みを十分に知っているからだ。
「ありがとうございます」
返って来た感謝の言葉に、お礼を言いたいのはこちらの方だと、過去のお礼が出来ていない私はその言葉に胸を痛めた。でも誰が聞いているか分からない状況で、私はまたこの人にお礼を言う事は出来なかった。



