運動神経は高かったけれど、体育で本気で走ったりなんかはしなかった。だって、疲れるし筋肉痛とかなったら嫌だし。


 そんなあたしは、体育じゃないのに走っている。これ以上はスピード出ないってくらい走っている。疲れた、息苦しい。

 でも、足を止める事なんて出来ない。


 何度も何度も電話をしているのに、奏多は出てくれなくて。いつも見つけるのが簡単だった彼を見つけることが出来なくて、走るあたし。


 奏多は優しかった。最初から優しかった。どんなにあたしがワガママ言っても怒らなかったし、どんなにあたしが傷付けても責めなかった。

 きっと今、奏多は1人でーーー泣いている。


 涙を流していなくても、ココロが泣いているに決まってる。早く見付けなきゃ、早く伝えなきゃ。そう思いながらまた走る。



 ーーーープルルルル、プルルルル

 何度目のコールなのか分からない。


 もう一度かけ直そう、そう決意して「切」をタッチしようとしたら、通話時間00:00にパッと切り替わる画面。



 『ーーーはい。』

 その声にまた、胸が苦しくなる。会いたい、今すぐ言いたい。ねえ、奏多。



 「…会いたいっ!!ちゃんと気持ち、伝えたい。ねえ、どこに居るの…?」


 そう言えば、少しの沈黙のあとに、奏多はゆっくりと口を開いた。



 『もしもし、オレ奏多くん。今、あなたの後ろに居るの。』

 ーーーーその言葉にパッと振り向けば。




 「おかえり、結衣。」

 20メートル先に居るどうしようもなく愛しい彼が、スマホを耳に押し付けながら、そう言ったんだ。




 「奏多…っ、」

 そしてあたしは、走り出した。