泣きたくなかった。涙で男を騙しているとか、泣けば誰かが助けてくれるとか思われたくなかったし、ムカつく佐伯さと美に弱いところを見せたくなかった。


 「あーもう、お前は泣くなよな。」

 背中をトントン叩かれる度にポロリポロリと涙が次々と溢れ出してくる。


 「泣いてないから、うるさい…っ。」

 そう強がる自分の涙声でさえ、泣きたくなってくる。なんていうか、ダサいわ。もう、最悪。


 「結衣ちゃんはそうやって、いつも誰かに守ってもらって、卑怯だよ!!」

 睨みながらそう言う佐伯さと美。予想通りといえば予想通りの反応。やっぱり男に守られているとか思われるよね。


 「うん、知ってる。」


 「な…っ、」


 「でも、誤魔化していたって、仕方ないじゃん。」

 開き直るなよ、とか言われるのかもしれないけど、あたしの上辺を好きになってくれるたくさんの人より、本当のあたしを見てくれる数人の方がよっぽど大切な存在だって、気付いた。


 佐伯さと美の思惑通りなのは癪だけど、でも、ニコニコして天然を演じていたって、嘘はいつかバレる。

 完璧に嘘をつく自信なんてないし、後でバレました、なんてことになるくらいならーー自分で壊しちゃえば、いいんだ。



 「あたしは、性格悪いよ。」

 でも、佐伯さと美だって性格悪いよ。そう言おうとしたあたしの言葉は、発することなく喉の奥へと突っかかる。


 「ーーーもうやめてよ、結衣ちゃん。こんなの結衣ちゃんじゃない!!」

 さっき佐伯さと美を庇った女の子の声によって。



 ーーああ、やっぱり。


 「ひどいよ、結衣ちゃん、大嫌い!!」

 やっぱり、あたしは女の子から嫌われる天才だ。



 「結衣ちゃんのせいでクラス、めちゃくちゃだよ!もう、大嫌い!!」

 覚悟していた言葉なのに、胸に痛いくらいに突き刺さってーーー気付いたらあたしは、


 「…ごめんね、」


 教室を飛び出して、走り出していた。



 誰も追ってこない、誰も居ない、1人の場所に行きたくて。必死に走った。