「朔くん、何言って…っ、」
知奈が焦ったような声で早瀬にそう言うけれど、早瀬は知奈の顔を見ることなく、佐伯さと美に対して口を開いた。
「お前、今俺にムカついただろ?」
「だって、こんなに優しい奏多くんを嫌うなんて、」
憎しみや怒りに染まってしまった佐伯さと美の表情。これが佐伯さと美のずっと思っていたことで、ずっと佐伯さと美は奏多が好きだったんだ。
「佐伯さぁ、奏多が好きなの?」
「…悪い?」
からかうような早瀬を睨む佐伯さと美。いつも自分の席で読書か勉強しかしていなかった佐伯さと美が、あの早瀬を睨むなんて。正直驚いた。
「悪くはないけど、」
話を続ける早瀬の顔から、ーーー笑顔が消えた瞬間。ギュッと心臓が取られちゃうような圧迫感と、冷や汗が、ジワリとあたしを襲った。
「俺だって、好きな奴がお前の良いように傷付けられんの、ムカつくんだけど。」
低い声に険しい表情。教室が凍り付いていくのが分かった。早瀬が怒れば、関係ない人まで真っ青になって俯いてしまう。そんな早瀬に、ゾクッとした。
守られて楽すんのも好きだけど、自分で攻撃してスッキリするのはもっと好きな派。だったあたしだけど、早瀬には、「早瀬、黙って」なんて言えなかった。
だって、早瀬めちゃくちゃ真剣にあたしのことで佐伯さと美を怒ってくれているんだもん。
「結衣殴ってたら、ボッコボコにしてたよ。お前。」
クスリと笑ってそう言う早瀬を、真っ青な顔で見ている佐伯さと美。
どんな風に反応したり話したりすればいいか分からずに俯いていると、早瀬にポンポンと背中を叩かれてーー我慢していた涙が、ポロッと零れた。

