佐伯さと美が右手を上に振り上げてから、乾いた音がするまでが、ひどくスローに感じた。


 泣くかな?って思ったんだけど、逆上させてしまったみたいだ。ああ、やっぱりあたしって女子に嫌われたり怒られたりする天才なんだ。

 痛いかな、痛いよね。叩かれた瞬間やり返そう、そうしよう。なんて思いながら、ギュッと目を閉じた。


 ーーーパシッ

 乾いた音が教室に響いて、ザワザワと騒がしくなる教室。それなのに、痛みを感じないあたしの頬。


 「あ…っ、」

 佐伯さと美の焦ったような声にそっと目を開けると、目の前にはーー奏多が立っていて。


 「もう、いいじゃん。佐伯。」

 真っ青な佐伯さと美にニコリと悲しそうに笑いながら、口を開く奏多。


 「結衣は佐伯の思い通り、本性みんなにバレたし、もう結衣は佐伯が言ういつもみんなに愛されている結衣ちゃんじゃないよ。」

 そう言えば、不機嫌そうに表情を歪める佐伯さと美。その表情は反省しているようには見えなくて、あたしの中の怒りが、爆発した。



 「あのさぁーー 「結衣、落ち着け。」

 言い返そうとすれば、グイッと腕を掴まれた。キッと睨んでみるけど、ーーあまりに真剣な表情に、あたしは口を閉じた。



 「佐伯、お前の気持ち、分からなくもねえよ。」

 そう言って、奏多と佐伯に近付いたのは。さっきまで黙ってみていた、早瀬で。なんか、純粋に呆気に取られた。


 「俺も奏多にムカついてムカついて、仕方なかったし。」

 笑っているのに、ピリピリと早瀬から伝わる緊張感に、怖いと思ってしまっているあたしが居た。