「早瀬結衣って性格悪いらしいねー。」
廊下をすれ違う時に、他のクラスの女子がそう言ってあたしを睨んだり。
「好きです~なんちって。騙された?」
性格悪いあたしを挑発するように冷やかしで呼び出して告白したり。
他のクラスの人からのあたしの評価もがらりと変わった。あたしを可愛いなんて言う人はもちろん、廊下で会っても声すらかけない。
まあ、あたしが悪いんだけど。
「よくその顔であたしに告白する演技できたね?」
なんて笑いながら他のクラスのからかいで告白してきた男子をバカにするように見たり、
「性格悪いよ、あたし。」
悪口を言う女子に笑顔で答えたり。もう、天然で可愛い早瀬結衣はどこにも居なかった。
悪口なんて分かりきっていたことだし、男子にナメられてこういう風に告白されるのも想定内だったけど。
言い返すたびになんだか無性に悲しくなって。なんとも言えない気持ちになる。
「結衣ーだいすきだよ、」
あたしに言い聞かせるように真剣な表情でギュッと手を握る知奈ちゃんの優しさとか、気遣いが、やたら心に染みた。
「ありがと、知奈……なんちゃって。」
知奈、と呼ぼうとしたけど、恥ずかしくて誤魔化した。そんなあたしを驚いたような顔で見る知奈ちゃん。
「やっと、呼んだ!!」
あまりに嬉しそうにそう言うから、なんか泣きたくなってきて、顔を見られないように知奈ちゃんにギュッと抱き付いた。
「知奈。」
「慣れんの遅いよ、結衣。」
そう言う知奈ちゃんの声は震えていて、どれだけ知奈ちゃんから愛されていたのか、伝わってきた。
「あたし、負けないから。」
そう笑えば何度も何度も頷く知奈ちゃん。
「そばに居る。」
知奈ちゃんは、知奈は。ただ一言そう言ってあたしの背中を二回やさしく叩いた。
それだけでもう、充分な気がした。

