あたし、猫かぶってます。



 「騙していたんですね、やっぱり。」

 わざとらしい佐伯さと美の言葉も、今じゃイライラさえもしなくて。きっとこれは佐伯さと美が望んだエピローグなのに、やけに落ち着いてる自分が居て。



 ーーー「結衣!!」

 その声が聞こえるまで、きっとあたしは自分でも訳が分からない状態だったのだと思う。


 「へへっ、言っちゃった。」

 へらへらと笑って自分を保つあたしを、誰よりも近くで見てきた彼。彼には心配をかけたくなかったのに、なんでよりによって今、教室に来ちゃったの?


 「やっぱり、今までやってきたことは返ってくるんだねー?」

 そう笑ってみるけど、笑えていない自分。誰も喋らない教室に響くのはあたしの声と、知奈ちゃんの泣き声と嗚咽。


 「なんで、結衣…」


 「ーーーなんでだろ、分かんない。」

 うそ。本当は全部分かってやっていることだから。


 「結衣なら、こうなることは分かっていただろ?」

 分かっていたよ、だからずっと自分を隠してきたし、可愛い結衣ちゃんを演じてきた。だけど、


 「ーーだって、結衣ちゃんは絶対やらないって、みんな必死なんだもん。」

 あたし、性格悪いのに。なにも知らない男子は真っ直ぐにあたしを信じてくれていて。みんな、あたしの味方をしてくれていて。


 「これ以上騙すくらいなら、嫌われた、ほ、が…マシ…っ、」

 ポタリと、零れてはいけないものが、零れた。



 ーーーバサッ

 頭に、何かを被せられる感覚と、ぎゅっと引き寄せられる感触。あたしを一番そばで見てくれた彼には知られたくなかったのに。


 「もう、いい。全部俺のせいだから。結衣に騙させていたのは、俺だから。」


 「…なっ、奏多くん!?」

 佐伯さと美の動揺した声で、やっぱりそういうことなんだと理解した。



 「違う、奏多じゃなくて、あたしが調子乗ってみんなを騙してーー「黙って、結衣。」

 そう言われればなにも言えなくなるあたし。



 一番知られたくなかったのに、奏多に知られてしまった、佐伯さと美とあたしの戦い。

 言い訳ばっかりしていたあたし。自業自得の結末だ。むしろ、「気にしてないよ」なんて作り笑いで言われる方が泣きたくなるし。別にいいや。


 「ごめん、結衣。」

 菜穂ちゃんが、静かに口を開く。


 「結衣がやってないのも、結衣の気持ちも分かった。だけどーーーうちは結衣とは、仲良くしたくない。」

 当然の結末。コクリと頷けば、黙って聞いていた女の子達が次々と私も私もと言い出して。黙ってあたしは頷いた。


 最終的に残ったのは、クラスの男子と知奈ちゃんだけになってしまったけれどーー予想していた結果だった。



 そして、その日からあたしは、佐伯さと美はおろか、知奈ちゃんも以外のクラスの女の子から挨拶すらもされなくなり、完全に居ない存在扱い。

 中学のあの日々が、もう一度帰ってきたような気がした。