「え…?」
先ほどあたしを庇った男子が、ギョッとしてあたしを見る。男子だけじゃない、菜穂ちゃんも、まこちゃんも、早瀬も、佐伯さと美でさえ驚いている。
「あたし、本当は自分のこと“結衣”なんて呼ばないし、お菓子作れないし、おつまみ好きだし、自意識過剰で、負けず嫌いで、面倒くさがりなんだよね。」
あたし以外のみんなが黙るなか、1人でベラベラと話す自分が、ひどく滑稽に見えた。
「中3の時にクラスの女子に無視されてから、女なんて信用できないって思ってたし、あたしの顔しか見てない男も、バカみたいってずっと思ってた。てか、奏多以外の人間なんて、信用してなかった。」
腹黒いあたし、早瀬に負けないくらい性格悪いじゃん。あーあ、可愛い可愛い結衣ちゃんも、今日でさよならか。
「早瀬のことも、最初は大嫌いだったし、なんでこんな奴がクラス仕切ってんのって、顔見るたびにイライラしてた。でも、」
こんな時に限って涙は出ない。いや、こんなときだから涙が出ないのかもしれないけど、
「知奈ちゃんが無視されてた時、初めて助けたいって思った。そして、知奈ちゃんを助けることができる早瀬に、どうしようもない気持ちになった。」
あたしは知奈ちゃんを助けることができなかったのに、簡単にそれをやってのけた早瀬が、すごくすごく眩しかった。
「早瀬のおかげで知奈ちゃんと本当の友達になれたし、早瀬のおかげで自分を受け入れてくれる人に出会えた。」
知奈ちゃんはポロポロと涙を流しながらあたしの話にコクコクと頷いてくれて。その姿に胸がぎゅっとした。
「嘘ついててごめんね、これが、本当の早瀬結衣です。」
仮面の外れたあたしに、「そんなのどうでもいい」という都合の良い声は無かったけど、でも、それでも、あたしは泣いちゃだめだ。
だって、自分がやってきたことだから。自業自得だから。

