「つまり、結衣ちゃん以外を好きになりたいんですか?」
佐伯さと美さんの透き通った声に、ドクンと心臓が嫌な風に鳴った。なんていうか、佐伯さと美さんは、なんでそんなに奏多に興味持ってるの?
しかも、奏多もなんでそんなに全部全部、佐伯さと美さんに話してるの?私に言えなかったことなのに。
「それが、理想かな。」
奏多の言葉を聞いて、あたしの中のモヤモヤした気持ちが大きくなったような気がした。
あたしは早瀬が好きで、奏多と付き合っている、身の程を弁えろよって言われるポジションの女の子なんだけど、さ?
この話を、奏多の本音を、なんであんまり仲良くもない女の子にペラペラ話しちゃってんの?
麻紘じゃないし、早瀬でもない。佐伯さと美さんと話している奏多を見るのも初めて。なのに、なんでこんなに仲良く話してるの?
ヤキモチなんて、妬く資格無いのは分かってる。けど、こういう気持ちって理屈じゃないじゃん?
早瀬と棗ちゃんがヨリ戻したって聞いたときは純粋に悲しかったけど、奏多が佐伯さと美さんに心を開いているのは、なんかイライラする。
所詮あたしって自己中なんだよ。こういう人間だもん。早瀬にも奏多にも離れて欲しくないんだ。ほんと、顔だけ良いダメ人間。
ま、別にあたしが性格悪いのなんて今始まったことじゃないけど。悪役キャラみたいな性格だよね。2人の男を離さない、みたいな?
「じゃあ。」
そして。
佐伯さと美さんの声に嫌な予感は、的中する。
「私と付き合えば、忘れられるのでは?」
なんとなく、予想していた。どうしよう。止めなきゃ、早く止めなきゃ、奏多が行っちゃう。
いつ起きればいい?今起きたら不自然?でも、このままじゃ奏多、あたしから離れる。ーーーあたしが優しくなかったから?自己中だったから?…どうしよう。
「私、まだ秋村くんのこと、好きですよ?」
二兎追う者は一兎も得ず。なんてことわざがあった。それは多分、本当らしい。
佐伯さと美さんの言い方は、まるで以前から奏多を好きだったみたいな言い方。《まだ》って、なに?
どうしよう。やだ。

