「めちゃくちゃ求めてるよ、見返り。」
「え?」
驚いたような佐伯さと美さんの声。
「だって俺、天使みたいなやつじゃないよ?」
奏多はハァとため息を吐きながらそう言った。どのタイミングで起きればいいのか、分かんない。
「結衣が断れない状況作って攻めたし、結衣の弱いところ突いて、付き合った。」
佐伯さんになんでこんな話しているんだろうね、なんて笑いながら奏多はそう言った。
「…秋村くんは幸せなんですか。」
あたしは別に、奏多と付き合うことは自分で決めたし、奏多を裏切りたくないって自分で思った。奏多があたしのこと分かっているのと同じで、あたしだって奏多のこと分かってる。
奏多が、本当に優しいことなんて。ずっと前から知ってるよ?
「幸せ、に見える?」
寝たふりをしていたあたしには、奏多の声しか分かんなかったけど。奏多は多分ーー
「幸せじゃないよ。すげー、つらい。」
すっごく悲しい顔、していると思う。
「結衣のこと自由にしてあげなきゃいけないって分かってんのに、ココロが言うこと聞かないんだよ。結衣じゃなきゃやだって、うるさい。」
あたしには話してくれなかった本音。
今までずっと、あたしは自分のことしか考えていなかった。奏多がどんな気持ちで笑っていたかとか、なんにも考えていなかった。
「結衣を嫌いになりたいって思うくらい、結衣が好き。」
早瀬があたしを好きとか。あたしが早瀬を好きとか。自分のことでいっぱいいっぱいだった。
奏多は中学から、あたしのことを想って、あたしのことを優先してくれていたのに。
これじゃ、あんまりだよ。

