奏多=優しいの方程式が頭で完成されていたから、奏多のいつもとは違う、誰か分からなかったくらい低かった声に驚いた。
でも、驚いたのはあたしだけじゃなくて、さっき堂々と悪口大会を開いていた女の子達もみたいだ。
「奏多くん、利用されてるんだよ?」
そう言いながらも奏多の態度にビクビクしているような声。強いんだか弱いんだか分かんないよね。
「勘違いしてるようだけど。」
相変わらず怒りを含んだ声色の奏多が、ため息を吐きながらそう言葉を返した。
「結衣が俺を離さないんじゃなくて、俺が結衣を離さないんだよ?」
フッと笑う奏多。でも、全然嬉しそうな表情じゃなくて。何度か見たことがある、傷付いている時の表情の奏多。
「なにもしていない結衣のこと、無視とかしたら許さないから。」
ガタンと音がして、奏多が女の子達に近付いたんだって分かった。あたしは相変わらず机に突っ伏したままで、耳を澄ませる。
「悪口言っていたことは、結衣には知られないように無かったことにしてね。」
「でも、結衣は…」
「おれさ、」
まだ突っかかる女の子達に、声を被せる奏多。
「このこと知って結衣が傷付いたりしたら、君達のこと大嫌いになる自信あるわ。」
ふわふわしていて、いつも優しい奏多からは想像出来ないような言い方。本気で怒ってる、しかも私のことで。
「もう、結衣を誰かに傷付けられんのはたくさんだ。」
その言葉に、奏多の言動の意味が分かった。
奏多は、麻紘の時みたいに私が男関係で孤立しないように、自分が悪者になっているんだ。
「っ、」
こんな陰口大好きな女の子なんて、最初から友達として認識してないのにーー私、知っても前みたいに泣いたりしないのに。
ばかだよ、奏多。
なんでそんなに奏多は私を甘やかすの。なんでそんなに奏多は自分を犠牲にして私を守るの。