あたし、猫かぶってます。



 私は朔くんより結衣の方が大好きだし、大切なのに。勝手に解釈しちゃって、ばかばかばか。


 「好きなひと、居ないから!」

 一瞬、頭の中に麻紘くんが浮かんで、消えた。というか、意図的にデリートした。優しくされたから、自分に甘いから好きだなんて、餌付けされている猫みたいだし。


 「うそ、居るでしょ。」

 そんな私の気持ちなんか全然分かっていない麻紘くんは未だに私が朔くんを好きだと勘違い。ばか。


 「麻紘くんは、分かってない!」

 私が好きじゃないと言ったら好きじゃないのに。私の気持ちは、私以外証明できないのに。なんで、嘘なんて疑うの。


 「だって、俺、」

 ムキになった小さい子みたいに、ガッと勢い良く主張しようとするけれど、しゅんと大人しくなって、それから考え込むような悩ましげな顔をする。


 「言って。」

 気になって仕方ない私は、そう問い詰める。だって、私だけ自分の気持ち打ち明けるなんて、不平等だし。



 「俺、本気で斎藤だけなんだよ?」

 ぽそりと、呟いた声はしっかり私に届いた。バッとしゃがむ麻紘くんは、耳が赤くて、照れているんだって、すぐに思った。



 「斎藤が幸せならなんだってするし、斎藤が俺に好意持ってくれんなら、朔との仲だって、取り持つ。」

 自分に尽くしてくれるから好きだなんて、餌付けされている猫みたいな女の子には、なりたくない。



 「報われようが、報われ無かろうが、斎藤が好きなんだもん。仕方なくね?」

 なりたくないのに。


 「朔くんは、ふっきれてるし。好きな人なんて居ないよ。」

 麻紘くんに期待を持たせるようなことを言ってしまう私、悪い女の子だと思う。自覚、してる。でも、 



 「ごめん斎藤、俺いますごい嬉しくて脳みそとろけてる。」

 麻紘くんの言葉が、やけに特別じみて聞こえてしまうのは、多分気のせいなんかじゃない。