「ちょっと来て、斎藤。」
怒ったような声の麻紘くんが私の腕を引っ張る。きっと奏多くんを応援している彼は、私に邪魔して欲しくないんだ。
「…いつまで、引っ張ってんの。痛い。」
キツくなっちゃう口調。朔くんに思い入れはもう無いけれど、無神経に奏多くんを応援する麻紘くんに、ちょっとムカついた。
「怒ってる?」
さすがに気が付いたのか、困ったように笑いながらそう言う麻紘くん。笑ってるあたり、ムカつく。
「麻紘くんは、結衣の気持ち分かってないよ。本当に好きな人と結ばれなくて、幸せそうに見える訳?」
怒りに任せたまま、言葉を発する私。
普段、怒ったり暴走したりするタイプじゃないけれど、この不平等すぎる親友の恋愛には、さすがに口出しさせてもらう。
「ーー奏多だってたくさん傷付いてきたんだよ。」
ポツリと呟く彼の言葉が、とても意味あり気に聞こえてしまうのは何故だろう。
「奏多だって、結衣じゃなきゃダメなんだよ。」
朔くんの親友なのに、麻紘くんが応援しているのはただの中学のクラスメートの奏多くん。
「それに、」
言いづらそうに顔をしかめながら、何かを誤魔化すように私から目を逸らす麻紘くん。
「ーー結衣と朔がくっついて、傷付くのは斎藤でしょ?」
その言葉に。なにも、言えなくなった。
朔くんのことは多分、もう好きじゃない。イメージより弱々しいし、なんか、私と性格的に合わないし。別に傷付いたりしないんだけど、
「ばかでしょ、麻紘くん。」
必死な顔をして、麻紘くんが私にそう言うもんだから、なんか、感動したのかな。ちょっと、泣きそうになった。
「傷付いた斎藤に付け込むのも悪くないけど、泣いた斎藤は見たくないし。」
本当に、ばか。
不覚にも切なそうに笑う麻紘くんに、
キュンと、きてしまった。
別に好きとかじゃないけど。少しだけ、ね。

