あたし、猫かぶってます。



 私が朔くんに伝えなきゃいけない言葉は、愛の告白なんかじゃない。もうとっくに気が付いていたんだと思う。

 あんなに痛かった胸が、今は全然痛くないし。


 私の一言で朔くんが動いて、結衣が幸せになるなら、私は2人を幸せにできるような言葉を伝えたい。

 「ーーー朔くんっ!!!」

 屋上前の階段で、実につまらなそうにスマホをタッチしている男の子は、私がかつて好きだった朔くん。


 強そうで、自分を持っていて、周りに振り回されない、王様みたいな朔くん。そんな朔くんが普通の男子と大して変わらないと教えてくれたのは、結衣だった。

 「斎藤…?」

 不思議そうな顔で私を見る朔くん。もう、王様なんて、思わなかった。


 「これ、見て。」

 画像を朔くんに見せればーー朔くんの目が、ちょっとだけ細くなる。


 「結衣が、書いてた。結衣の字だよ。」

 そう言えば、静かに頷く朔くん。



 「結衣の気持ちが消えちゃう前に、結衣の中の何かが無くなっちゃう前にーー朔くんが、結衣を幸せにしてよ。」

 奏多くんは、優しいしまあまあカッコいいし、なんにも問題ないのかもしれないけれどーーそれじゃあ、ダメなの。


 「結衣泣いてるよ、痛いって泣いてるよ。朔くんを想って泣いてるよ。」

 朔くんが好き、って、誰にも聞こえないように結衣はこうやって伝えてる。



 「早く、結衣を追いかけて!!!」

 そう言えば、俯く、朔くん。



 ーーーなんで?



 「結衣を諦めて元カノとヨリ戻したから、…俺はあいつのこと、追いかけられない。もう、いいんだ。」

 朔くんの表情からは、結衣を好きだと伝わってくるのに、


 朔くんが発した言葉はなんで結衣を諦めたと言っているのだろう。