あたし、猫かぶってます。



 そして、期末テストの結果が貼り出されたときの出来事で、私はやっと結衣の気持ちに気付くことになる。


 「結衣ちゃん、おめでとう!」

 放課後、結衣と教室で話をしていたら、笑顔で結衣におめでとうと告げるクラスの男子。結衣は首を傾げながらも、とりあえずヘラリと愛想笑い。


 「結衣ちゃんもしかして見てない?テスト結果。」

 男の子がそう言えば、結衣の愛想笑いがピタリと止まってーーハッとしたように青ざめて、立ち上がる。


 そのまま結衣は走って教室を出て行き、私も結衣を追うように教室を出る。


 ーーー貼り紙の前まで来て、結衣がピタリと止まって、小さく「早瀬…」と呟いた。震えている肩が、結衣の今の気持ちを物語っていて。


 結衣のほっぺたには、涙が伝っていた。


 「早瀬…さ、く…っ、」

 何があったのか、私には分からないけれど。私の好きな朔くんの名前を結衣が切なそうに呼ぶことより、結衣がポロポロと涙を零すのを隣で見ている方が、何倍も何倍もつらかった。


 早瀬、早瀬と何度も朔くんの名前を呼ぶ結衣を見ていたら、私まで胸が痛くなった。あんなに取りたがっていた一位なのに、まるで、取りたくなかったかのような反応。壊れた人形みたいに、何度も早瀬と言っては、涙を流す結衣。


 今すぐ朔くんが来て、結衣を抱き締めたり、連れ去ったりすればいいのに、そうすれば結衣は絶対泣き止むのに。なんて思った。

 私も朔くんが好きなはずなのに、そんなことを考えている自分自身にびっくりした。



 そして、結衣が泣き出すから、周りにたくさん人が集まって来ちゃって大変だったけれど、朔くんは現れなかった。

 って言っても、すぐに奏多くんが来て、切なそうに笑いながら結衣の肩を抱いて帰っちゃったから、朔くんは出れなかったのかもしれないけれど。


 私も帰ろうと教室に戻ったら、魂が抜けたような表情の朔くんが居て、普段は「バイバイ」くらい言うけれど、無視して帰った。

 朔くんの気持ちはなんとなく分かるけれどーー私はそんな朔くんに、無性にむかついてしまった。


 朔くんが、こうやっているうちに奏多くんと結衣の仲が深くなっていくような気がして、なんか嫌だった。