あたし、猫かぶってます。



 オモテの結衣でも、ウラの結衣でも、隣にはいつも朔くんが居たのに。あんなに仲良しだった2人が、週明けには全く会話しなくなった。

 不思議に思ったのは私だけじゃなくて、自然とクラスの子も結衣と朔くんの間になにかあったんだと感づき始める。


 それもそうだよね。あんなに結衣の体調まで見切れていた朔くんが、結衣と話さないどころか、結衣をチラリとも見ないで机に突っ伏しているのだから。

 最近わりと話すようになったクラスの男子とも、ろくに会話しなくなったし、前と同じ1人の朔くん。だけど、前みたいな王様じゃなくて、今の朔くんはただの傷付いてる男子だった。


 結衣に何があったのか聞いてもどうせ話してくれないから、私は私を好きだと言っていた田崎くんに問い詰めてみた。

 田崎くんは、麻紘くんと呼ぶことを条件に、朔くんのことを話してくれた。ーーー朔くんが、結衣を諦めたことを。


 だけど、朔くんが結衣を諦め切れていないのは、一目瞭然だし、あんなに結衣結衣言ってたんだから、簡単に忘れられるわけがない。

 私のこの気持ちは、翌日、確信へと変わった。



 「結衣にゃん最近早瀬くんと一緒に居ないよね。チャンスかも。」


 「キスでもすれば相手してくれるかな?」

 そう言いながら、私のクラスをウロウロするオタク男子。まぁ、結衣は顔色悪くて保健室で寝てるんだけど。



 「ーーーなぁ。」

 そんなオタクに対して、あからさまに不機嫌な声が廊下に響いた。


 「確かに結衣とは話してねぇし、話す予定も無い。けど、」

 オタク男子を睨みながら、さらに声のトーンが低くなる朔くん。怒ってるオーラがビリビリ伝わる。



 「同意ナシで結衣にキスなんかしたら、ブッ潰すぞ。」

 そう言って、怯えるオタクを放置して教室へ戻る朔くん。その日の朔くんは、どっからどう見ても不機嫌で。廊下での出来事は、結衣以外のクラスメートほぼ全員が知っていたから、余計クラスの雰囲気が悪かった。

 大体、朔くんの声が教室まで聞こえていたみたいだし、結衣以外は遅かれ早かれ友達から友達へと言伝のように伝わってしまったんだろう。



 結衣に必死になる朔くんを笑う人は、男子にも女子にも居なくて。むしろまたもや彼は株を上げたらしい。

 
 ともあれ、朔くんの行動はどこからどう見ても

 ーーーとても、結衣を諦めたようには見えなかった。